ビジネスチャンス、知っておくべき世界のトレンドを発見しよう

課税逃れ防止へ口座情報要求、米新法が邦銀に波紋

商品やサービスは、アメリカで流行ったものが、いずれ日本でも流行るものが多いと考えると、金融や税務の世界にも同じことが当てはまるかもしれない。マイナンバー制の導入案もこうしたことの布石であるような気がする。

 

日本経済新聞:2012年3月14日)

 米国が来年1月から導入する課税逃れの防止策が邦銀に波紋を広げている。米国外の金融機関に米国人口座の情報提供を半ば強制する内容だが、邦銀が従えば個人情報保護法などの国内法に違反する恐れがある。金融機関が日米の法令の板挟みになるのを防ごうと、政府は業界から意見聴取を始め、米税務当局との調整に乗り出す方針だ。

 米国が導入するのは外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)。米国外のすべての金融機関に対し、米国人の口座情報を米税務当局である内国歳入庁(IRS)に届け出るよう求める。米国人が海外口座に資産を隠して課税を逃れるのを防ぐのが狙いだ。

 従来は租税条約に基づき、個人の氏名などを特定した上で相手国に情報を求めていたが、今後はIRSに自動的に通報するよう求める内容だ。

 だが邦銀がこの法律に従うと、顧客情報の漏洩を禁じた日本の個人情報保護法に違反する恐れがある。IRSへの情報提供を拒むと、邦銀が米金融機関から受け取る利子や証券売却代金に30%の源泉課税がかかる。

 法令違反リスクと巨額の課税のリスクの板挟みになる邦銀からは「やり方が強引すぎる」との声が上がる。金融庁が2月半ばに開いた業界ヒアリングでは、政府に対応を求める意見が相次いだ。

 政府は事態を重く見て、米側と調整に乗り出す方針。具体的には、日本政府を通じてIRSに情報提供する体制を整え、個々の金融機関にリスクを負わせないようにする。顧客が米国の納税者かどうか確認できない場合は報告責任を負わないなど、特例を米側に求めることも検討する。

 欧州では2月半ば、英仏独など5カ国が米側とこうした特例で合意した。米側に情報提供するだけでなく、米国にある各国の納税者の口座情報を受け取る契約も結んだ。自国の納税者の海外資産の情報を相互に提供し合う体制を整えた形だ。

 欧米各国は2008年の金融危機後に財政支出を拡大。財政赤字が膨らみ、国債利回り上昇などのリスクにさらされた。課税逃れの防止は財政健全化への共通の課題だ。 

 国際税務に詳しい西村あさひ法律事務所の伊藤剛志弁護士は「ボーダーレス化で人やカネは国境を越えて動くようになったが、課税当局は主権の壁に遮られている」と指摘。各国が情報共有や摩擦回避で連携を強化する必要性を強調している。