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「漫画」生かす進路描く 大学のマンガ学部 

少子化が進んで大学の生き残りが難しくなっていく中では、ガラパゴス日本ならではの学部を増やすことも対策のひとつ。

IT学部、映画・芸能学部、食学部、介護学部、・・・など、専門学校ジャンルが大学の学部化へと進んでいけば、その業界自体の地位向上と待遇向上につながっていくはずだ。

日本経済新聞:2015年4月13日)

日本の大学に「マンガ学部」が発足してから今年で10年目を迎えた。第1号の京都精華大京都市)は、少なくとも4人の卒業生が漫画家として雑誌連載を持つ。専門の学部・学科を備えた大学も4校に増えたが、プロになる夢を果たした若者は一握り。身につけた能力を関連産業や広報活動で生かせないか――。各大学は学生らが社会で広く活躍できるための新たな取り組みを急いでいる。

 「大学での4年間は、社会に巣立つ前の自立へ向けた大切な時間です」。京都市京都国際会館で1日開かれた京都精華大の入学式。漫画家の竹宮恵子学長が壇上から、マンガ学部の243人を含む新入生約800人を歓迎した。

 同学部は2006年、漫画を学ぶことを専門にした学部として、日本の大学で初めて設置された。今春の入試の志願倍率は約2.5倍。学生は北海道から沖縄県まで各地から集まるほか、韓国や中国などから迎えた留学生も約1割を占める。

 プロの漫画家を目指す学生60人余りが研さんを積むのが、同学部の目玉コース「マンガ学科ストーリーマンガコース」。吉村和真副学長は「教員として招いたプロの漫画家から直接学べる実習主体のカリキュラムを組んだ」と強調する。

 マンガを描くために必要なペンの使い方など基礎的な知識や技能だけでなく、「マンガ史概論」や「脚本概論」といった講座を通じ、創作力を磨くのもコースの売りだ。

インターン導入

 

 学生のプロデビューに向けて、大手・中堅出版社の漫画雑誌編集者からアドバイスをもらう機会も提供する。年に1~2回、編集者10人以上が大学を訪れ、出版社ごとに分かれたブースで学生の描いた漫画を品評する。

 「編集者に直接、作品を売り込む機会が少ない地方都市で、才能を埋もれさせないための取り組み」(同大入試広報部)だといい、3年生の夏には、漫画家のアシスタントとして働けるインターン制度も導入している。

 文部科学省によると、京都精華大のほかに漫画を冠にした学部・学科を備えた大学は、東京工芸大(東京都)、神戸芸術工科大(神戸市)、京都造形芸術大(京都市)の3校。ほかにも名古屋造形大(愛知県小牧市)や別府大(大分県別府市)など、各地の大学の芸術学部などに漫画を学ぶコースが開設されている。

プロは狭き門

  いずれも漫画やアニメなどが国際的に注目されるようになって以降の00年代に相次いで設置された。学生らの人気も集まるようになったが、京都精華大入試広報部によると、卒業生のうち雑誌で入選するなどしてデビューできるのは毎年1~2割で、漫画家として生計が立てられるのは、さらに限られている。これまでに同コースで学んだ卒業生約400人のうち、大手の漫画雑誌で連載を続けているのは少なくとも4人という。

 「授業で身につけた漫画表現や創作技術を、いかに多様な進路の選択につなげられるか」(吉村副学長)が大学側の課題となるなか、同大は13年度から「ゲーム作画演習」や「アニメーション演習」などの講座を新設。漫画の創作方法にとどまらず、関連産業への就職に求められる技能を学べるようにした。

 在学中から社会との関わりを持たせながら、卒業後の現実的な進路を描きやすくする試みも広がる。神戸芸術工科大芸術工学部まんが表現学科では2年前から、企業や自治体などの要望に応じ、広報用の漫画を学生が制作する授業を始めた。

 「歩きたばこは市内全域禁止なんだよ!」。兵庫県芦屋市で今年3月、約3万5千世帯を対象に市民マナー条例について説明するチラシが配られた。チラシに描かれた漫画を制作したのは、同学科3年の市川怜奈さん(20)。「自分の好みにこだわるのではなく、依頼主の狙いをくみ取った作品に仕上げることが大切だと分かった」と満足そうに話す。

 同学科の橋本英治教授は「大学で学んだ技法を生かせる場所が、社会にたくさんあると知ってほしい」という。

 広報・宣伝用のチラシ制作を請け負った学生の仕事ぶりが評価され、発注元の食品会社の採用につながったケースもあり、14年度には同学科の卒業生44人のうち12人が、小売りや広告といった分野の企業に就職した。

 今年に入り、学生に自身のプロフィルや自己PRを漫画化した「マンガ履歴書」を作成させているのは、京都造形芸術大芸術学部マンガ学科。マンガ履歴書を中心とした学生の作品を大学のホームページに掲載し、企業の採用担当者が自由に閲覧できる「学生スカウト制度」を実施する。

 同大の担当者は「内気な学生でも、自分の得意な漫画表現を通じて、個性をしっかりと企業にアピールできるはず」と狙いを話している。