ビジネスチャンス、知っておくべき世界のトレンドを発見しよう

東南アジア、財政健全化に軸足 マレーシアで消費税、タイで相続税

新興国から先進国入りに向かう上での通過儀礼とも言えるが、持続可能な成長目標とどう折り合いをつけていくか、各国の手腕が問われる。

日本経済新聞:2015年4月2日)

リーマン・ショック後、景気刺激に重点を置いていた東南アジア各国が財政健全化に軸足を移している。マレーシアは1日、税率6%の消費税の徴収を始めた。タイも今夏をメドに相続税を導入する予定で、個人向けの増税に踏み切る国が増えている。米国の利上げを視野に入れて、財政悪化を嫌った資金流出に歯止めをかけることを狙う。

 クアラルンプールの多くの商業施設は1日、「GST(消費税)が始まります」との貼り紙を店内に掲げた。コメや砂糖など生活必需品は免税となるが、多くの品目には等しく定価の6%の消費税が上乗せとなる。これまで手計算で精算をしていた小売店も、一定の規模を超える店は税金の徴収記録を残すためのレジ導入を義務付けられた。

 国民の反応は芳しくない。消費税導入に反対するデモが発生し、3月31日には大型店でトイレットペーパーなどをまとめ買いする消費者も目立った。それでも消費税導入を決行した背景には財政の悪化がある。

 同国は2008年の世界的な経済危機の影響を和らげるため、公共事業補助金を使って内需を底上げした。景気はいち早く持ち直したが、多額の財政赤字を垂れ流す副作用も生んだ。同国の政府債務残高は14年にGDP比で55%超と高止まりしている。

 外資系企業の誘致競争に対応して現在25%の法人税率を16年から24%に引き下げることを決めており、原油相場の下落により国営石油会社からの税収や配当金が減少するのも確実だ。これらの歳入減少を15年に217億リンギ(約7000億円)と見込む消費税収で穴埋めする計画だ。

 国営石油会社に歳入を依存してきたマレーシアも、シンガポールやタイのように消費者から幅広く税金を徴収せざるを得なくなった。

 個人からの徴税を強化する動きは周辺国に広がっている。タイは昨年11月に相続税の導入を閣議決定し、今年夏の導入に向けて準備を進める。保有する資産が一定額を超えた国民を対象に、最高で資産額の10%の相続税を課す内容だ。インラック前政権下での大型減税やコメの高値買い上げなど「ばらまき政策」で進んだ財政の悪化を食い止める狙いだ。

 ベトナムは5月1日、ガソリン購入時にかかる「環境税」の税率を現行の3倍に引き上げる。大気汚染対策などの費用に充てるこの税の税率は1リットルあたり1000ドン(約6円)だったが、これを3000ドンに引き上げる。東南アジア諸国連合ASEAN)域内の関税相互撤廃に伴い、目減りが見込まれる関税税収を補う狙いだ。

 個人の税負担が増せば消費意欲を冷ますリスクがある。消費が低迷して景気が減速すれば、税収増は絵に描いた餅で終わる可能性がある。マレーシアは消費税導入に合わせて低所得者向けの補助金制度を導入し、タイでも固定資産税の導入を巡る議論は進んでいない。成長と税収の確保のバランスをどう保つかを巡って難しい判断を迫られている。