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5000万円超の海外個人資産、税務署への報告義務化

マイナンバー制と銀行口座がリンクされれば、税務当局としては、より効果覿面になりそうなテーマ。

 

日本経済新聞:2013年6月11日)

海外に5千万円超の資産を持つ個人に報告義務を課す制度が来年の確定申告から始まる。海外に不動産や金融資産を持つ人の相続税の申告漏れ増加に対応する。

 「自分の海外資産も報告の対象になるのか」「どうやって資産の時価を計算すればよいのか」。大阪市北区で税理士事務所を営む松永和久税理士のもとには昨年来、海外に不動産や金融資産を持つ顧客から問い合わせが寄せられる。松永税理士は「報告へ向けた準備が始まる年末にかけて相談が増えそうだ」と話す。

 新たに始まる「国外財産調書制度」は毎年末の時価をベースに5千万円を超える海外資産を持つ場合、報告義務が生じる。2013年末分から始まる。対象となるのは海外にある株式、現預金といった金融資産、不動産、高額な美術品だ。

 年末時点の為替相場で、円に換算して資産額を確定する。同じ資産でも為替や海外の景気次第で5千万円を超えたり、超えなかったりするので注意が必要だ。13年末分は14年1月1日から3月15日に資産の種類や金額を示した調書を税務署に提出しなければならない。 

 13年末分の報告は経過措置として罰則規定の適用は見送られた。1年後の14年末分の報告から罰則規定を適用する。故意に調書を提出しない場合や虚偽の情報を記載した場合は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される。

 相続税の申告漏れの防止がねらいという。日銀によると、日本の家計資産のうち外貨建ての預金と有価証券の合計額は11年度末で14兆6650億円と5年間で約3割増えた。国税庁のまとめでは11事務年度(11年7月~12年6月)に把握した海外資産関連の相続税の申告漏れは111件で5年間で4割増えた。

 ただ、調書制度の導入で税務署が確実に海外資産を把握し、税逃れを防げるかは不透明だ。調書を提出しなかったり、虚偽の記載があったりしても、税務署が過去に蓄積した海外の資産を把握するのは難しい。

 日本国内の銀行口座と海外口座との間で多額の資金のやりとりがあった場合は、金融機関が税務当局に報告する義務がこれまでもあった。しかし、すでに海外に持つ不動産で得た賃貸収入などを海外の口座にため込んでいる場合などは把握するのが難しい。

 また、罰則の適用は故意であると税務当局が証明できる場合に限られ、簡単には罪に問えない。財務省は「けん制効果が期待できる」と説明するが、納税者と税務当局のいたちごっこは続きそうだ。