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中国人、オーストラリア不動産「爆買い」

池の中のクジラ現象がまた一つ。母集団とネットワーク、資金力の大きい中国勢が動けば、良くも悪くも、その対象となる国や市場に大きなインパクトを与えていく。

日本経済新聞:2015年4月9日)

シドニー中心部から東へ約5キロ。幹線道路を一歩入ると、閣僚や企業オーナーが私邸を構える住宅街が広がる。「オーストラリアで最も住宅価格が高い」とされる「ポイントパイパー」という地域だ。岬の海岸沿いに豪邸が並び、住民しか立ち入らないような秘密めいた場所にある。

 高台を走るウォルスレー通りの63~67番地に建つ大邸宅はビラ・デル・マーレ(海の館)の通称で知られる。不動産広告によれば、シドニー湾と観光名所ハーバーブリッジを一望できる。昨年11月、3900万豪ドル(約36億円)で転売された。

 この取引を巡って今年3月、ホッキー財務相が「違法な購入だった」と90日以内の売却命令を出した。購入したのは中国不動産大手、恒大地産集団傘下の豪企業。ホッキー氏によると、購入は英国領バージン諸島など複数ペーパーカンパニーを通じて行われた。

 豪州はビラ・デル・マーレのような既存の物件について、豪州国民か豪州の市民権を持つ人しか購入できないと定めている。外国人は新築物件なら購入できるが、海外に居住している場合は当局への申請が必要など細かい規定がある梅田専太郎

 今回の摘発は氷山の一角との見方も多い。「当局に住宅取引の全てを調べる人的余裕があるとは思えない」と大手不動産会社の販売担当者は話す。中国人富裕層による“爆買い”が注目されるのは、住宅着工件数が移民の流入などによる世帯増を下回り、住宅不足が問題となっているためだ。

 不動産大手CBREで新築物件を担当するディレクター、コリン・グリフィン氏は「着工前の計画段階で物件が飛ぶように売れている」と話す。当局の認可を必要とする外国人による購入件数の割合は、2013年の12.5%から14年は15%に上昇し「今年はすでに15%を超えた」という。

 豪準備銀行(中央銀行)が2月に追加利下げに踏み切り、豪国民にとっても買い時だが、値段はつり上がる一方。このままでは新婚夫婦がマイホームを買えなくなるとして、政府は外国人の住宅購入時に5000豪ドルを課税すると発表した。高額物件の場合は、100万豪ドルごとに1万豪ドルを課税する。

 これが外国人投資家の意欲をそぐかどうかは不明だ。数億円の物件を買う富豪にとっては、気にならない金額かもしれない。不動産取引は相変わらず盛況で、かえって課税前の駆け込み需要を刺激してしまうことになったのは皮肉だ。