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介護人材 アジアで争奪戦 政府、外国人スタッフ拡大急ぐが… 

外国人が日本で働くための語学習得費用を、政府が援助するような仕組みも導入していかないと、海外との人材争奪戦に勝てなくなってくるかもしれない。

日本経済新聞:2015年4月4日)

高齢化で需要が膨らむ2025年度に30万人が不足する介護スタッフ。政府は外国人を活用して人手不足を和らげようと技能実習制度の拡充などを打ち出したが、アジアでも高齢化で介護需要が増え始めている、アジアを舞台にした介護人材の争奪戦は激しくなりそうな雲行きだ。

 

 社会福祉法人、青森社会福祉振興団(青森県むつ市)の中山辰巳専務理事は昨秋訪れたインドネシアジャカルタで「介護人材が台湾などにかなり流れている」と耳にした。台湾は経済成長が続き賃金の水準があがっているうえ、就業条件も緩やか。インドネシアにも近いため介護職場として日本より台湾を選ぶ人が増えたという。

 日本語能力と介護の技能を備えた外国人を安定的に確保するには、アジアで自ら育てるのが早道だ。こう確信してきた中山氏だが、インドネシアだけでは人手確保に不安がある。「日本語がブームで親日的なベトナムが有望だ」と判断。フエ医科薬科大学が開く介護学科に講師を派遣し卒業生を介護福祉士候補生として日本に受け入れる仕組み作りに動いている。

 だが、思惑通り人材を確保できるかは微妙だ。「円安が進み、日本の介護人材の確保は大変になる」。ベトナム政府関係者はこの3月、アジアから日本の医療福祉への就労を支援するNPO法人、AHPネットワークス(東京・港)の二文字屋修・事務長にこう指摘した。昨年後半からの円安で日本での稼ぎはアジア通貨に換算し1~2割目減りしているという。

 アジアの「労働力輸出大国」フィリピンではどうか。首都マニラ北郊のパンパンガ州に住む女性、ジェレミー・カルロスさん(32)は、3人の子供の学費などを稼ぐため専門学校で介護を学んでいる。だが、「日本は介護士が足りないと習ったけど、ニホンゴを勉強するには追加料金もかかるし……」と言葉を濁す。

 英語が公用語のフィリピン人にとっては、アジア域内だけでもシンガポールや香港など、一定程度稼げる選択肢は豊富にある梅田専太郎。加えて「中国の富裕層がフィリピン人を家事手伝いとして雇い入れ、高齢の両親の介護や子どもの英語教育をしてもらう動きが出ている」(AHPネットワークスの二文字屋氏)。

 フィリピン外務省によれば、中国政府は外国人の家事手伝いなどへの従事は法律で禁じている。だが、比国内のあっせん業者や中国側のビザ延長などを手伝う組織や個人を介した出稼ぎが広がっている。

中国が焦点

  アジアの高齢化は日本以上のスピードで進み始めている。65歳以上が全人口に占める割合「高齢化率」は、日本が1990年の12.0%から2030年に31.6%と、約20ポイント上がるのに40年ほどかかる。一方、韓国は10年の11.1%から40年の30.5%、台湾は10年の10.7%から40年の30.1%といずれも30年ほどで、日本よりもスピードが速い。

 焦点となるのは、中国の動きだ。高齢化率でみれば20年で11.7%、40年でも22.1%。韓国や台湾と比べ低い。だが、総人口が14億人と巨大なため5年後の20年には、日本の総人口を上回る約1億4千万人が高齢者となる計算だ。一握りの富裕層が外国人の介護スタッフを雇う動きを進めるだけでもアジアの労働市場に大きな影響を与える。

 かつてアジア唯一の先進国だった日本の介護現場は、発展途上のアジア各国から見ると比較的高い給料がもらえるとされてきた。日本はそうした常識を引きずったままアジアで介護人材を確保しようとしている。

 だが、アジア各国の成長と高齢化が進むなかで、常識は急速に逆転し始めた。金融やIT(情報技術)などの高度専門職に続き介護の世界で、各国の人材の争奪合戦が起きようとしている。