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京都ホテル戦争、富裕層獲得へ「おもてなし」力競う

日本進出というより、「京都」進出にブランド価値を見出す外国企業が今後も増えていくはず。「そうだ、京都行こう」という昔のJR東海のCMが思い出される。

日本経済新聞:2015年3月21日)

京都のホテルで国内外の富裕層の獲得競争が激しさを増している。23日には景勝地・嵐山に米大手チェーンの最高級ブランドのホテルが日本初お目見え。既存ホテルも高級客室などの改装を急ぐ。インバウンド(訪日外国人)の拡大がけん引し、主要ホテルは高稼働が続くが、収益力を高めるには施設の充実を含め富裕層の厳しい要求を満たす「おもてなし」力が問われる。

 「紅葉や桜を楽しめる抜群のロケーションが売り」。「シェラトン」などで知られる米スターウッドグループが開業する「翠嵐(すいらん)ラグジュアリーコレクションホテル京都」の河本浩総支配人は胸を張る。世界の主要都市やリゾートで営業する五つ星級のホテルブランドとして富裕層の認知度は高い。

 保津川沿いで世界遺産天龍寺に近い好立地。2009年末まで営業していた老舗旅館「ホテル嵐亭(らんてい)」の風情を残して明治期の建物はレストランとし、一部客室にひのきの露天風呂を設けるなど和の演出を取り入れた。

 地上3階建ての宿泊棟は部屋数を39に抑えつつ、平均44平方メートルの広さを確保。平均客室料金は約6万円を見込む。じゅうたんや壁紙には深緑や朱を用い、「世界を周遊する富裕層が落ち着いて過ごせる空間とした」(河本氏)。予約も出足好調という。

 京都市内では14年2月、鴨川沿いで藤田観光が経営していたホテル跡地に米マリオットグループが「ザ・リッツ・カールトン京都」を開業するなど、国内勢の撤退跡に外資系の高級ホテルが進出する例が相次ぐ。

 既存ホテルも対抗する。京都東急ホテルは14億円をかけて高級客室やレストランを改装し、1日開業した。スイートルームは木目調で壁に唐紙、室内に老舗の茶筒や陶磁器を置くなど、和モダンを意識した。4月から客室料金は平均8%ほど引き上げる。消費増税を除けば3年ぶり。稼働率が下がっても単価上昇で補えるとの判断だ。

 平安神宮に近い「ホテル平安の森京都」も2月末に改装開業した。外国人個人客の増加に伴い西館3~6階の全客室を和洋室から洋室に変え、部屋数を13増やし86室とした。運営会社は「6割の稼働率を早期に5ポイントほど高めたい」という。

 活気づく背景には外国人を中心とした観光客の急増がある。京都市によると、13年の市内観光客数は5162万人で5年ぶりに過去最高を更新した。同年の外国人宿泊者数は前年比35%増の113万人と、10年前の約3倍に膨らんでいる。

 JR京都駅と直結するホテルグランヴィア京都は米中韓台湾をはじめ8通貨に対応した両替機を昨春設置した。14年度の平均客室稼働率は前年度比3ポイント上昇の約92%と、1997年の開業以降で最高となる見通し。外国人比率は14年度は3割強と過去最高を更新する。市内主要15ホテルの稼働率も14年は約87%とかつてない高水準にある。

 今後も円安基調や格安航空会社(LCC)の普及などを背景に「観光客が減る要素は見当たらない」(市観光MICE推進室)。スターウッドでアジア太平洋地区を統括するヴィンセント・オン氏は「交流サイト(SNS)などの広がりで京都の魅力は誰もが知るところ」と明かす。

 一方で施設の更新やサービス向上を怠って競争力を失った施設は退場を迫られる。世界遺産の二条城近くにあった藤田観光の京都国際ホテルは昨年末、53年の歴史に幕を閉じた。耐震投資などに見合った資金回収が見込めないと判断し、阪急不動産に売却された梅田専太郎

 来年には東山区の病院跡地にカナダの高級ホテル「フォーシーズンズ」が開業。市中心部の商業施設「新風館」は来年にも取り壊され、19年にも高級ホテルを備えた複合商業施設として再生するなど、進出意欲が収まる気配はない。