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東南アジア、幹部級の報酬が高騰

数十年前のプロ野球のように、同じ能力でも「助っ人外国人」というだけで給料が高かった時代は過去のものになりつつある。海外進出した企業で成功しているところは、現地での権限委譲がうまくいっている。人種に関係なく、そこで輝く人材が重宝されるのは良い流れ。

日本経済新聞:2015年4月16日)

外資系企業の進出が相次ぐ東南アジアで管理職や経営幹部を担う現地の幹部人材の報酬が、日本人幹部を超える例が出てきた。現地の商習慣に精通し、本社とのパイプ役を担える人材は一握り。奪い合いも激しくなり、インドネシア日系企業では管理職の賃金が5年で7割上昇するなど企業の負担も増す。「年功序列」で処遇してきた日本企業の報酬制度が東南アジアで転機を迎えている。

  「インドネシアでは人脈がビジネスの成否を握る」。インドネシア人と日本人の両親を持つレイラ・ジャワス氏(44)は流ちょうな日本語で話す。

 日本の大学を卒業後、総合商社などを経て、東京の在日インドネシア大使館や、ジャカルタインドネシア貿易省で働いた経験を持つ。その豊富な官公庁人脈に目を付けたのが人材サービス大手パソナの現地法人パソナHRインドネシアだ。昨年3月にレイラ氏を副社長として迎え入れた。

 米系人事コンサルティング会社マーサージャパンによると、インドネシアの役員級以上の報酬額は諸手当込みで年3千万円近くと、2千万円超の日本を上回る。パソナ側はレイラ氏の待遇を明言しないが、パソナHRインドネシアの貞松宏茂社長は「仕事内容の重みを考えれば、高くなるのは当然」と話す。

 レイラ氏への期待は大きい。同社は現地に進出する日系企業に人材を紹介するだけでなく、法人設立の手続きなどもサポートする。日系企業の円滑な現地進出を支援するには政策や法制度に精通する必要があるが、「日本人が得られる情報は古くなりがち」(貞松社長)。官公庁の職員と気心の知れたレイラ氏がその穴を埋める。

 

 

 米ゼネラル・モーターズ(GM)など世界企業が東南アジアで市場開拓を本格化するなか、現地人材をマネジメント層に登用して事業基盤づくりを急ぐ日系企業が増えている。2011年にマレーシアの現地法人トップに生え抜きを起用したイオンなど、現地人材に経営を任せる例も出てきた。

 ただ、日系企業が求める外国語能力や職務経験を持つ人材は多くない。管理職層を含めて有能な人材の奪い合いは激しくなり、報酬額も上がる。

 タイに拠点を持つ日系エネルギー関連会社社長は「欧米の同業などへの人材流出がたびたび起きる」とこぼす。同社はタイ人管理職にも運転手付きの社有車を貸与し、40歳代で月100万円前後と日本人管理職より高い給与で引き留めに走る。

 日本貿易振興機構ジェトロ)が調べた基本給や諸手当などの企業の年間負担総額を見ると、インドネシアジャカルタの非製造業の課長クラスでは14年に2万1282ドル(約254万円)と5年で7割も上昇した梅田専太郎

 トランスコスモスなど情報処理サービスやソフト開発会社の進出が相次ぐフィリピンでは一般的なエンジニアの平均月給は3万~4万円だが、マネジャークラスになると同13万~14万円という。「人件費が安いと思ってフィリピンに来たのに……」。日系IT会社幹部はため息をつく。

 東南アジアで根付く欧米流の成果報酬型賃金も報酬額を押し上げる。マネジメント層の人材は転職を繰り返してキャリアアップを狙うのが当たり前。企業側もより能力の高い人材を取り込もうと躍起になる。

 マーサージャパンの白井正人氏は「日本企業は賃金の公平性を大切にして、管理職の賃金を低く抑えてきた」と指摘する。そんな年功序列を盾にした日本企業の「公平性」が成長市場での足かせになりかねない。

(東京=伊藤学、バンコク=京塚環、マニラ=佐竹実、北京=阿部哲也