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JR九州、飲食店を上海で出店拡大

海外進出というと、1店舗出して満足してしまうケースも多い中、同じ国の中でも立地に応じて中身を変える、顧客ニーズ重視の姿勢が着実な店舗数の拡大につながっている。

日本経済新聞:2015年3月18日)

 九州旅客鉄道JR九州)は中国・上海で飲食店「うまや」の出店を拡大している。2012年に1号店を開業、今年5月をめどに5店舗体制を確立する。各店舗では立地に応じて営業形態やメニューを細かく変えるなど実験的な取り組みを進める。本部が店舗運営を管理するチェーンオペレーションをあえて脱することで、上海での成功モデルを模索している。

 「AKASAKA UMAYA TOKYO 2015 SPRING GRAND OPEN」――。上海・浦東地区に森ビルが建設した地上101階建ての複合ビル「上海環球金融中心」。この建物の一角でJR九州がうまや5号店の今春開業に向けて準備を進めている。上海での人気を聞きつけた森ビルが出店を要請したという。

 JR九州がうまやの上海進出の準備に着手したのは10年9月。約1年かけて事業性調査を進めるとともに、「いつでも店を開けるように物件の検索も同時に進めた」(うまやを運営する上海JR九州フードサービスの李春光総経理)。上海の中心部にあり富裕層が多く住む静安地区の元台湾料理店の建物を改装し、12年2月に1号店を開業した。

 基本的には日本と同じメニューを提供しているが、当初は「食材を調達するだけでも一苦労した」(松尾亮総料理長)。11年の東日本大震災による東京電力福島第1原子力発電所事故を受けて、各国が日本からの食材輸入を制限していたためだ。しょうゆに関しては「米国で製造したしょうゆをシンガポール経由で手に入れた」という梅田専太郎

 現在、1号店の一日平均の売上高は65万円。企業などの接待に利用されるケースが多く、夜間の時間帯の客単価が5000円と順調に推移。「収支も黒字になっている」(李総経理)。1号店が早期に軌道に乗ったため、13年5月に2号店、14年3月に3号店、今年2月には4号店を出店した。

 店舗ごとに持ち味が異なるのが、うまやの上海展開の大きな特徴だ。2号店の場合、地下鉄の駅の上に立地する商業施設に入居する。このため、ちゃんぽんやラーメン、皿うどんなどを中心とした料理を提供。3号店はオフィス街に立地していることから、女性客の比率が高いという。

 4号店はショッピングセンター内のフードコートに出店した。「かなり挑戦的な取り組み」(松尾総料理長)だ。2号店と同様に麺業態店との位置付けだが、フードコートの客層にあわせて食材などを変え、価格を2割強引き下げた。今春開業の5号店は上海環球金融中心の客層を考え、バーカウンターを設けることも検討しているという。

 5号店の出店後、1~2年は「店舗レベルの向上に努める」(李総経理)と話す。数多くの店舗フォーマットに磨きをかけることで、まだ数多くある好立地への出店につなげる狙いだ。

 ただ、上海では飲食業の離職率が高いのが実情だ。時間をかけて育てた人材が他の店舗に移ることも少なくない。接客など日本流のノウハウを身に付けさせた従業員をいかにしてつなぎ留めるかが、今後、現地でのうまや事業の成否の鍵を握る。(西部支社 豊田健一郎)