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現地精通の多言語人材に  東京外大流グローバル教育 立石博高学長

今後の日本企業の進出先や現時点での英語以外の人材母集団を考えれば、このアプローチは大正解ではないかと思う。

 

日本経済新聞:2015年3月19日)

アジアや中東など新興国で活躍する人材の育成こそ、我が大学の使命――。東京外国語大学の目指す道は、英語重視の欧米型グローバル人材教育とは一線を画す。立石博高学長は「地域の文化や歴史などにも精通した、多言語グローバル人材こそ、これからの日本に必要」と考える。東京外大の新しいグローバル人材の教育について聞いた。

 

 ――東京外大の目指すグローバル人材教育の特徴は何ですか。

欧米流とは一線

 

 「国際化というと、米国型グローバルスタンダードに光が当たりがちだが、これからの日本に必要なのは、アジア、中東、南米などで地域の実情を熟知したローカルに強いグローバルな人材だ。本学は27言語を学べ、60カ国から留学生を受け入れている。多言語グローバル人材の育成ができるのは、本学だけと自負している」

 ――具体的にどのような教育をするのですか。

 「4年間の在学中、1人が2回留学する留学200%を、10年以内に達成する。1年間の長期留学と3カ月程度までの短期留学を1回ずつのイメージだ。ビルマ語専攻の1年生は昨年7月、全員が現地に1カ月の短期留学をした。ラオス語、トルコ語ベトナム語などの専攻でも、多くの学生が早いうちに短期留学している」

 「留学しやすいように4学期制を始めた。2学期にあたる7~9月、4学期にあたる1~3月に短期留学を推奨したい。この期間に留学生の支援などボランティア活動をすれば、単位認定することも考えている」

 ――海外からの留学生受け入れ体制はどのように強化しますか。

 「海外での日本語教育や留学生受け入れ支援のため、グローバル・ジャパン・オフィスを設ける。第1弾としてミャンマーヤンゴン大学に開設した。第2弾以降も台湾の淡江大学、エジプトのカイロ大学などで開設しており、最終的に海外の38大学で日本語教育や留学生の募集をする。こうした留学生と接することで、新興国の文化や歴史への理解が深まる」

 ――この路線が高じると東京外大に英語学科は不要という声が出ませんか。

 「そういう意見も学内にないわけではないが、現実には英語専攻は受験生に最も人気があり、難易度も高い。英語を第1志望にして、結果的に他の言語を専攻したという学生も多い」

 「英語以外の言語専攻学生には、1年生から英語の少人数授業を受けてもらい、英語力も伸ばす。本学で学べば、英語プラス多言語に強い人材になれるようにする。英語を専攻する学生には、1年生のうちから、第2言語をしっかり学ぶよう指導している」

 ――それでも今、注目されているのは、英語重視のグローバル教育ではないでしょうか。

 「確かに秋田の国際教養大や早稲田大学国際教養学部などに比べ、ここ数年、本学に埋没感があったのは否定できない。文部科学省のグローバル人材育成推進事業の対象校の選考からも漏れてしまった。その反省から、2014年度の文科省のスーパーグローバル大学創成支援事業の選定を受けることができた」

歴史や文化熟知

 

 「きれいな英語を話す人材の養成だけが、グローバル教育ではない。例えば中東などでビジネスが急拡大しているが、現地の言葉を話すだけでなく、歴史や宗教、文化まで理解している人材は不足している。このような人材育成への期待は大きい」

 ――グローバル人材の育成を目指す中、女子学生が増えていますね。

 「私が入学した1969年は女子学生の比率は15%だったが、今や65%だ。グローバル志向の女子は多く、留学も女子の方が積極的だ。外務省、大手商社、大手金融などで女子の採用実績が目立つ。本学は教員も女子比率が高く、お茶の水女子大より多いほど。副学長も女性がいる」

 ――単科大学ゆえのハンディキャップはありますか梅田専太郎

 「自然科学系の教育を充実させるため、東京医科歯科大、東京農工大、電気通信大と連携し、授業の乗り入れをしている。府中に移転して通学に不便になったという声もあるが、多摩地区の7大学と提携するなど、地の利を生かす新しい構想も実を結びつつある」

 「単科大学にとって財務基盤の強化は共通の課題だ。2023年の建学150周年に向けて基金を設ける。OBや多言語グローバル人材の育成に期待してくれる企業の支援をお願いしたい」