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100万人が地下暮らし、「ネズミ族」の実態は 北京

(CNN:2015年3月15日)

住宅価格が高騰している中国・北京で、地下室や防空壕などの狭い空間に住む人々の数が増加している。現地メディアで報じられることはほとんどないものの、こうした人々は「ネズミ族」と呼ばれている。

「ネズミ族」の多くは出稼ぎ労働者で、民間住宅には手が出ない。「戸口」と呼ばれる正規の居住許可証を持っていないため、公営の低コスト住宅に入居することもできず、地下に住むことを余儀なくされているのが現状だ。

北京では現在、推定100万人以上の人々が地下で暮らしているとされる。

写真家の沈綺穎氏は、こうした「ネズミ族」の生活ぶりを5年にわたり記録してきた。同氏は当初、地下で暮らしているのはごく普通の人々だと予想していた。だが、その実態を調査してみると、彼らはかなりの「変り者」だったという。その多くは上昇志向が強い若者だ。

同氏はまた、地下生活が思いのほか快適であることを指摘する。夏には湿気を排除するため除湿器を使用。北京で寒さが厳しくなる冬は、地上の家よりも暖かいくらいだ。

「地下の住空間は悲惨に見えるし、私自身、哀れみの念をもって取材を始めた。だが、人々はできる限りの工夫を凝らして前向きな地下生活を送っている」と沈氏は語る。

一方、南カリフォルニア大学のアネット・キム教授は、インターネット上の7000件以上の賃貸広告を調査。北京に広がる地下都市を地図に描き出した。

調査によると、居住スペースの中央値は9.75平方メートル、家賃は平均で月70ドル(約8400円)だった。もっとも、これは条件がかなり良い物件の話だという。

同教授によると、この種の地下住居に住んでいる人々の数について、正確なところを知るのは難しい。推定人数は20万~200万人となっており、数字に幅があるが、100万人とみるのが妥当なようだ。

北京で建造されるビルは、その全てに地下室を併設することが義務づけられている。1950年代に国防政策の一環として始まった。2010年まではこうした地下の空間に住むことは、建築基準法に沿っている限り、完全に合法とされていた。

しかし、現在の政策では、人々を退去させるのが公式方針になっている。ただ、政策の履行にばらつきがあり、地下住居の賃貸広告は、梅田専太郎同氏が調査を行った2013年の間にむしろ増加した。

地下住居の代わりとなる低コストの選択肢は、北京郊外の「城中村」だ。ただ、長時間をかけて通勤するよりは地下での生活を選ぶ人の方が多いのが現状だという。

アネット教授の調査では、「ネズミ族」が地上に住む人々とほとんど交流を持っていないことも明らかになった。同教授は、「地上に住む人々はできるだけ距離を置こうとしており、ネズミ族に対する恐怖を助長する結果となっている」と話す。

成功をつかみ、地上に「昇格」する例もある。沈氏と最初に親しくなり被写体にもなったペディキュア師の女性の場合、北京東部のコンドミニアムの地下で長年暮らした末、地上に移り住んだ。

ただ、このような成功例は少ない。沈氏は、社会階層を上昇していく「ネズミ族」の例も存在するとしながらも、多くの人々にとって戸口制度が障壁となっている点を指摘する。戸口制度の下では、出稼ぎ労働者が家を買って定住することは難しく、北京に生活の拠点を作り家族を持つ上での妨げとなっている。

同氏によれば、大抵の人は、最終的に故郷に帰り、店を構えるなどして家族を養うことを思い描いているという。