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東南アジア、賃上げ止まらず 4カ国で10%前後見込む

このペースだと、あと10年もすれば日本との賃金格差は相当縮んでいるはず。今後、メーカーの海外進出のあり方が問われることになる。

日本経済新聞:2015年3月21日)

日系企業が集積する東南アジアで、2015年の賃金改定が大詰めを迎えている。年初までに労使交渉を終えたインドネシアベトナムに続き、タイは4月に向けて交渉が本格化する。経済成長を背景に9カ国中4カ国で10%前後の賃金上昇が見込まれるなど、賃上げ率はおしなべて高めだ。雇用環境や物価、法定最低賃金にも左右される各国の賃上げ事情を追った。

  「社員の生活をマイナスにはできない。物価上昇分は最低限確保したうえで、妥協点を探りたい」。タイで5500人を雇用する自動車部品大手、デンソー・インターナショナル・アジアの飯田康博社長は話す。

 タイの賃金改定は春交渉が一般的だ。デンソーは昨年の賃上げ率が7%台後半で決着したとみられる。物価の上昇が続くアジアでベースアップは当たり前だが、前の年の物価上昇率の2.2%を大きく上回る水準だった。今年は3月3日に労組が要求を提出済みで、月末の妥結を目指す。

 タイでは失業率が1%を切り、人手不足が顕著で、賃上げは不可避だ。デンソーは製造工程を効率化し、人件費を抑制することで対応する。加えて社員の満足度を高める企業努力も必要で、食堂を全面改装し、卓球やインターネット利用の娯楽スペースを増築した。

最低賃金上げと連動

 

 

 日本貿易振興機構ジェトロ)が昨秋実施した日系企業実態調査などによると、各国の賃上げ情勢からは一定の「法則」が読み取れる。直近に最低賃金を引き上げた国は基本給との差が小さく、昇給率は高い。インドネシアカンボジアベトナムがその代表例だ。

 賃上げ率見込みが12.3%と最大のインドネシア。政府が昨年11月、燃料補助金削減のため、ガソリン価格を3割以上引き上げたことで、最低賃金も1月から最大2割強上がった。それでも労働者側の要求に応じ、トヨタ自動車など日系工場が集まる西ジャワ州ではいったん決まった金額に1~2%の上乗せを迫られる事態となった。

 業務の外部委託が厳しく制限されている同国で、派遣社員などを活用した人件費抑制策はとりにくい。「従業員の8割は最低賃金」(日系の医療機器メーカー)だが、その最低賃金が急騰する現状では逃げ場がない。サレ産業相は「改定は5年おきでいい」と発言したが、実現は難しいとみられ、企業は当面、生産性向上でしのぐしかない。

■韓国系、12%で決着

 ベトナムでは韓国系の造船大手、現代ビナシンで昨年末、2500人の従業員が2日間ストライキを強行した。経営側が提示した5%の賃上げに労組が反発したためで、最後は12%で決着した。

 11年に18%に達したベトナム物価上昇率は、原油安で昨年は4%に低下した。企業は賃上げ率も抑えたいものの、最低賃金は1月から15%上昇。同程度のベアを求める労組との意識の食い違いがストを頻発させる。

 一方、昨年の国内総生産(GDP)伸び率が6.1%と域内最高だったフィリピンは、最低賃金が1年半据え置かれたままで、今年の賃上げ見込みも5.3%にとどまる。失業率が7%弱と域内で最も高いためだ。1億人を突破した人口は順調に増え、若年労働力は潤沢。物価は安定し、労組の組織率が低いため賃上げ圧力も高くない。

 マニラ郊外にプリンター工場を持つセイコーエプソンは1万2千人を雇用するが、労組はない。7割が最低賃金で、昇級の場合は物価上昇率や業務成果に応じて決めている。有利な採用条件を背景に、約120億円を投じて17年にも工場を2倍に拡張し、人員も2万人に増やす計画だ。

■配膳ロボット活用も

 シンガポールは月額基本給が1600ドル(約19万円)と突出し、物価上昇率失業率も低水準だ。労働集約的な仕事には周辺国からの出稼ぎ労働者を活用してきたが、政府が受け入れ制限に動き、人手不足が深刻だ梅田専太郎

 円盤に載ったジュースが滑空してテーブルに到着すると、歓声が上がる。飲食店チェーンのティンバー・グループは1月下旬、空飛ぶ「配膳ロボット」の実証試験を公開した。年内にも実際に導入開始予定で、配膳効率が25%向上するという。

 エドワード・チア社長は「配膳の負担が軽くなれば、従業員はより丁寧な接客が可能」と期待する。労働の自動化につながる技術開発は政府も後押しし、配膳ロボを開発したベンチャー企業のインフィニアム・ロボティックスに2200万円の助成金を与えた。投資額の4倍を所得控除する税制優遇も実施している。