留学お得な国は? 米英の学費高騰で広がる視野 ドイツ、外国人も無料 スペイン、英語+α格安で
「みなさん、ドイツの公立大学の学費がいくらかご存じですか。原則無料です」。2月中旬、香港で開かれた留学フェアで独ラインウオール大学の誘致担当者、アーリケ・ニータさんがこう語ると、下を向いていた香港の学生らが一斉に顔を上げた。ドイツ人も、海外留学生も一律に無料、と聞くと学生らは一段と驚きの表情を見せた。
ニータさんのプレゼンテーションの名前は「ドイツで英語学位を取得する」だった。オランダに近いクレーベの町にある同大学は、ドイツにありながら授業は100%英語だ。欧州の盟主、ドイツにとっても「国際化」の流れについていくには英語が欠かせなくなっている。
なぜドイツ人が払った税金を投入して、外国人の学費まで無料にするのか。ニータさんによると、かつては貧しい国の学生だけに慈善事業として学費を免除していた。だが、最近はドイツ政府の考え方が変わった。「天然資源のないドイツにとって、唯一の資源は人の頭脳。その頭脳は多様な意見に触れれば触れるほど革新的なアイデアを生む」と見始めたのだ。外国人に無料で門戸を開くのは、実はドイツの競争力を保つ戦略投資なのだという。
英エコノミスト誌は1月「米国の新しい貴族社会」と題する巻頭記事を掲載した。1980年と比べると、米大学の学費は米国の平均所得の伸びを17倍上回るペースで拡大している。自由と平等を標榜しながら、富裕層の子供しか大学に行けないのが今日の米国の実態だと批判した。
学費高騰の背景には各大学が競うように進めている設備投資がある。全米有数の図書館、青々としたキャンパス、最新型のフットボールスタジアム――。多数の学生をひき付けようと大学はどんどん美しくなっている。
そうした巨額な投資を可能としているのが、正規の学費を払う海外留学生の存在だ。中国やサウジアラビアの富裕層から来た学生は、奨学金制度も使わなければ、地元の米国人向けのような学費の割引制度もない。設備投資のコストを学費に転嫁しても、留学熱が冷める気配はない。
「学費バブル」で米、英、オーストラリアへの留学が困難となるなか、そうした国への留学をあきらめた学生を取り込もうと、多くの国が立ち上がりつつある。スペイン、フランス、ハンガリーなどでは英語で授業を進める大学が次々と登場し始めた。母国語が英語ながら、米英豪よりコストが安いアイルランドやニュージーランドも人気だ。
「コストパフォーマンスなら断然スペイン」。香港の留学フェアでスペイン大使館の担当者は力説した。公立の大学なら年間の学費が700~3700ユーロ(10万~50万円)で収まる。住居費、食費も米英より安い。
スペインの売りは、英語で大学生活を送りながら、同時に世界で2番目に話されている言語であるスペイン語(1位は中国語)を身につけられることだ。「スペイン語は世界21カ国の公用語。中でも今後の成長センターである中南米で話されているから、ビジネスに生かせる」と大使館員は話す。
これに真っ向から挑むのがフランスだ。「これからの成長センターはアフリカだろう」として、フランス語を公用語とするアフリカの二十数カ国の旧植民地を指す。
フランスの公立大学なら学費は年189ユーロとスペインよりさらに安い。オール英語の大学もある。
ニュージーランドは安全性を前面に打ち出す。過激派組織による人質事件などで海外生活を不安視する人が多いのは事実だ。留学フェアで同国関係者は「ニュージーランドは有史以来、一度も戦争をしたことがない」と話していた。
意外な留学先として浮上しているのが中国大陸だ。広東省珠海市にあるユナイテッド・インターナショナル・カレッジ(UIC)は講義がすべて英語の大学だ。強みは中国各地から集まったエリート中国人と机を並べ、人脈を形成できることだ。これからビジネスの舞台は「中国」と考えれば、一足早くネットワークを築いておくのも一案だ。
語学力の向上や海外での生活経験は、ビジネスパーソンとして必ず生きるはずだ。学費を理由にあきらめるのは早い。